「社会教育」誌 連載 第6回 (2002年 3月号)
シニアネットジャパンの活動から
見えてきた課題(下)
シニアネットジャパン事務局  松尾魚菜子
はじめに
この連載のはじめに、年を重ねることによって文化を創る可能性が生まれる、文化としての「老い」の力について(「老入れの力」)触れました。韓国に「インターネット集賢殿」という団体があります。これは、ITを活用したシニアのネットワーク作りを行っている団体です。
先日インターネット集賢殿の会員のみなさまとお会いする機会に恵まれました。会長の柳氏はじめお目にかかった会員の方々は、激動の歴史を生きてこられた中で生まれた深い経験と豊かな教養、そして今なお生き生きとした好奇心を持っておられるように見えました。まさに年を重ねることによって文化を積み重ね、そして新しい文化を創る担い手となられている方々との出逢いでした。
「老入れの力」を秘めたシニアの方々の国を超えた交流を実現するために、そしてその力を世代へつなぐために何ができるでしょうか?シニアネットジャパン(以下SNJ)が取り組む大きなミッションの一つはまさにここにあると考えます。シニアの持つ知識や経験を共有し、交流し、そして発信するための橋渡し役です。発信するということは、文化的な生産活動へ結びつくと思っています。この生産活動にとって必要なことは、文化を生産する力となり得るシニアの力を結集し、伝えるしくみを作ることです。そのための条件を整えていかなくてはなりません。
昨年より開始したSNJ活動から見えてきた課題について前号で触れました。NPOとしてのSNJができることは何かという視点から、これからの高齢社会ではシニアという社会文化的な資源を最適に社会へ還元し、活かすための基盤作りが求められていることを紹介しました。今月は、SNJが、日本で地域に根ざした活動を行っているシニアの団体や海外の団体とのコラボレーション(協働)を通して、ローカルとローカルがグローバルに出逢い学びあうことのできるネットワーク作りに挑戦していることについて話を進めて行きます。
コラボレーション(協働)の前提条件:
(財)ニューメディア開発協会の調べによると、現在日本には大小あわせると100以上、シニアのネットワークを形成している団体があるといわれています。これらは主に、ITを活用してシニア同士の仲間作りや生きがい作りを目的に、それぞれの団体内部の会員交流や同世代へパソコン指導をする事業を活発に展開しています。ここでは、なぜSNJとそうした地域の団体とのコラボレーション(協働)が必要なのかについて考えていきます。
日本でのシニアのネットワーク活動の中では先進的な団体である、シニアネット久留米の活動をここでは取り上げてみます。シニアネット久留米は、1998年に会員10名からはじまり、2000年12月にNPO法人格を取得しました。現在では会員500名を有するに至り、この種の団体としては全国的に見ても大きなものの一つとなっています。設立の目的は、定年退職をしたシニアが、ITを活用することによって第2の人生を生き生きと、仲間作りをしながら自立して生活することでした。
組織規模の拡大とともに、組織維持運営のための事業も同様に拡大していく必要があります。そこで、この団体は、地域に根ざしたシニアの人材育成と活動の機会をシニア自身の手によって創出しながら、事業開発を試みています。事業の柱は、シニアによるシニアへのパソコン指導(人材育成)と市から委託されたIT講習会や小学校や老人ホームへの講師派遣(就労機会提供)です。
シニアネット久留米にみられるこうした地域に根ざしたシニアのネットワーク活動が、ITをキーワードに全国で盛んに生まれています。これはさまざまな理由で退職はしたものの就労意欲を持ちつづけるシニア、地域貢献への参画を希望するシニア自身が、自分たちの手で地域に活躍できる場や楽しむ場を作っていこうする試みといえます。そのような地域の団体とSNJの協働の意義は、日本のシニアの「力」を集め、そして生産的な活動へと結びつけることではないでしょうか。
では、どのようにコラボレーション(協働)は行えるのでしょうか?まず、地域シニアのネットワーク活動がもつ強みと弱みについて考える必要があります。地域に根ざした顔の見えるネットワーク活動の強みは、住み慣れた地域で身近な安心できる、ある程度同質な価値観をもった同世代のネットワークが構築できる、ということです。しかしながら、他方で、この地縁にもとづくネットワークは、組織の存立する基盤自体がこれまでの地域のしきたりに根ざしているということもあるため、多様な価値観をもった人々の受け入れや新しい質の情報収集を行う場合に活動が保守的になる傾向が見られます。この傾向は、本来の強みである「地域性」が逆に組織の弱点ともなって現れるという両義性を抱えているともいえます。
この限界を孕んだ地域のネットワーク活動を行っている団体とグローバルなネットワークをもつSNJが協働することによって、お互いの団体の強みをより発揮し、シニアネットワークの活動の意義を広げると考えられます。SNJの強みとは、多様で異質な情報提供や人との出逢いの場の提供ができることです。そのような学びと交流の機会を海外とのつながりを活かしながら提供することができる一方で、SNJには日本の地域に根ざした情報や人をネットワークしている団体ではないということに由来する弱点もあります。
コラボレーション(協働)から新しい挑戦へ:
米国のSeniorNetRは、約4万人の会員を有する組織へ成長しています。この成功のカギは、コラボレーション(協働)でした。SNJが、米国のSeniorNetRから学んだことの一つに、次のことがあります。それは、組織規模に関わらず、個々の団体が明確な使命と目的を持ち、お互いにとって必要な主体となる、つまり対等な立場を作るという作業がコラボレーションを行うときに重要であるということです。
この実現のためには、まずは前提条件を整えなくてはなりません。それは、先に述べたようにそれぞれの団体の組織分析を十分に行い、組織の強みと弱さを明確に自覚することからはじまります。その自覚から、それぞれの団体の自律性が問われてくるといえるのではないでしょうか。そして、自律した団体同士が補完的な関係を持ちながらミッション(使命)やゴール(目的)に向かって協働することが重要です。
はじめに紹介したインターネット集賢殿のみなさまとのコラボレーションによって、両国のシニアの民間レベルでの学びと出逢いのシニアのネットワークを作るプロジェクトが生まれつつあります。現在70代前後の韓国人シニアは、韓国と日本の2つの文化を経験せざるを得ない中で、その体験を個人の生きる力へ昇華する努力を長い間積み重ねてこられた方々であると思います。このみなさんとの交流は、ローカルとグローバルの視点を持ちながら現代社会を生活せざるを得ない日本人へ深い洞察力を与えてくれるものではないでしょうか。
シニアの方々の経験と知識の共有によって、双方の文化を伝え合うことが可能となるとともに、シニア世代のみならず、若い世代にとっても日本人として、日本についてもう一度見つめなおす学びと交流の機会が広がっていると考えられるからです。これは、次の世代へシニアの人々の智恵や経験を「文化」として伝えていく大きな事業となる可能性を持っています。そのためにSNJができることを問い続けていかなくてはなりません。
地域に根ざした日本のシニアのネットワークを活動の基盤とされているみなさまと海外のシニアとのネットワークの橋渡しをすることがSNJのこれからの大きな挑戦です。韓国、米国、そして日本のシニアのネットワークとのコラボレーション(協働)をもとに、どのように文化的な橋渡しができるのでしょうか。その取り組みが、シニアのネットワークの場(拠点)としてSNJのオンラインコミュニティのあり方がこれから試されていくことになると思っています。
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