日本経済新聞 (2001.07.01)
急増する米シニアネット
米国で情報技術(IT)を生活に取り込む高齢者が急増している。その後押しをしているのが全米最大のシニア向けパソコン教育の非営利組織(NPO)、シニアネット(本部サンフランシスコ)。最近、同ネットと提携したシニアネット・ジャパン(同福岡県久留米市)が設立された。シニアネット・ジャパンの松尾魚菜子理事に米国の活動ぶりを報告してもらった。
生徒と先生は同世代
「いろいろ実験を重ねていくうちにシニアにパソコンを教えるには同世代のシニアが最もふさわしいと思うようになった。人さし指だけでキーボードを打つ初心者たちにも、落後者が出ないように丁寧に教えられるのは、同じような生活体験の人がいい。ボランティアで活動するこうしたインストラクターを集めて学習センターを作り、全米に広げていくことにした」
シニアネットの代表を務めるアン・リクソンさん(42)は、同団体ならではの特徴を説明する。
楽しくパソコン学ぶ
その学習センターのひとつ、サンノゼ(カリフォルニア州)の学習センターで会ったビル・ソウザさんは、多くのインストラクターを統括するコーディネーターの一人。IBMを退職し、もう七十歳に近い。開講日には、インストラクターが入り口で「名前を記入して、フロッピーディスクを受け取ってください」と受講者を案内していた。その光景を見守るソウザさん。
ソウザさんの業務は受講生の募集からその名簿作り、教育カリキュラムの作成、インストラクターへの仕事の振り分け、その評価など多岐に及ぶ。管理者だが、無償のボランティアである。こうしたボランティアが全米に五千人、学習センターが二百二十カ所。実に四十州にまたがる。
そもそもシニアネットは、一九八六年にサンフランシスコ大学のメアリー・ファーロング教授の研究テーマとして提案されたものである。「パソコンを使ったネットワークで、高齢者の社会的孤立を解消できるだろうか」という問題意識からだ。これにアップルコンピュータやニューヨークの財団が助成金を提供してNPO活動が始まった。
アン・リクソンさんは、これまで多くのNPOの幹部を歴任し、NPO運営で高い評価を受けている。彼女が代表に就任した五年前から学習センターを各地に広げ、それまでの十年間に比べて二倍に増やした。その結果、会員も四万人近くに達した。学習センターは各地の州、市の行政府やショッピングモール、大学などから事務所やパソコンなどの提供を受け、自主運営をしている。最も多いのが公立のシニアセンター(高齢者福祉施設、日本のデイサービスセンターや介護相談所などを併設したもの)内での開設だ。サンノゼでもサンノゼ市と契約を結んで看板を掲げた。
低価格の受講料実現
自治体側からすれば、施設を用意するだけで、地域住民向けにIT教育を施してくれることになる。また将来、こうした受講生が講師となり、ボランティアの育成にもつながる。効率を考え、行政が直接手がけるよりも、プロにゆだねることにしたのだ。学習センターにとっても、施設の管理など煩わしい業務に携わる必要がなく、日々の運営のみに徹することが出来る。
こうした地域との巧みな交流が、事業を拡大させてきたともいえる。また、学習センターでの受講料は、十六時間で三十五ドル。これだけ低価格なのも、ボランティアが運営しているからこそだ。
「高学歴で富裕なシニアでもまだパソコンに触れていない人は多いはず。ぜひ支援していきたい」と、リクソンさんは胸を張っていた。
旅行や年金など話題に
センターで学んだ受講生は、つぎにオンライン活動にも入る。シニア専用ウェブサイトで世界最大のシニアネット・オンライン(http://www.senior-net.org/)の会員となり、電子メールを使い遠隔地に住む家族や会員と交流を楽しむ。
会員同士では家庭や旅行、読書、コンピューター関連そして第二次大戦の思い出などがよく話題になる。年金など財形プランや海外旅行、高額品の買い物などもネット上で活発に行われている。リクソンさんによると、五十歳以上のシニア層は米国の全資産の八割を持ち、他の人口層と比べ三倍の金をオンライン上で使っているという。
会員のうち、六十五歳−六十九歳と七十歳代でそれぞれ四分の一ずつを占めている。この二、三年は女性会員が増え、四年前は八十%が男性だったのが、今では男女比が逆転、六五%は女性だ。高学歴なのも特徴的なことで、七九%が大学卒だから、米国平均の三倍以上という。
ページのトップへ
掲載記事一覧へ
|